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名古屋高等裁判所 昭和50年(う)117号 判決 1975年12月10日

被告人 得野富人

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人原山恵子作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官佐度磯松作成の答弁書に記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

所論は要するに、道路交通法四三条により、交通整理の行われていない交差点において、道路標識と道路標示により一時停止を指定するには、標識と標示を同じ場所に設置すべきであり、道路標示が道路標識からはるかに離れた場所に表示された場合その表示は無効と解すべきところ、原判示交差点に表示された道路標示「停止線」は、交差点の直前に設けられた道路標識「一時停止」より約四〇メートルも交差点内に入つたところに表示されているから無効といわなければならない。そうだとすれば原判示交差点は、道路標識で一時停止すべきことが指定されているだけで、停止線の道路表示のない場合ということになるから、交差点の直前で一時停止すればよく、被告人も交差点の直前に設けられた道路標識附近で一時停止をしたのである。従つて原判示交差点に設けられた停止線を有効と解し、被告人が交差点の直前で停止しているのに拘らず、停止線の直前で一時停止しなかつたとして、被告人を有罪とした原判決には、法令の解釈適用を誤り、事実を誤認した違法がある、というのである。

よつて検討するに、一時停止の交通規制を行う場合使用される道路標識「一時停止」は、交通整理が行われていない交差点又はその手前の直近において、車両等が一時停止すべきことを指定するものであり(道路標識、区画線、及び道路標示に関する命令(昭和三五年総理府、建設省令第三号)別表一、番号(330))、道路標示「停止線」は、車両等が停止する場合の位置を示すものである。(同令別表五、番号(203))従つて道路表示「停止線」は、それのみでは交通を規制する効力なく、道路標識「一時停止」と併用されて始めて交通を規制する効力を有することになり、道路標識「一時停止」は、道路標示「停止線」を併用することによつて、より適正な交通規制を行うことができるのである。そしてこのような両者の関係から考えて、標識と標示を併用する場合、道路標示「停止線」が道路標識「一時停止」から離れたところに表示されていて見えない場合には、道路標示を無効と解すべきこと所論のとおりであるが、道路表示が道路標識から見得る範囲内にありさえすれば、たとえある程度離れていても、道路標示は有効と解するのが相当である。本件において、道路標示「停止線」が、道路標識から約四〇メートルも交差点内に入つたところに表示されていたこと所論のとおりであるが、当裁判所の検証の結果によれば、道路標識の設置してあるところから、その前方の交差点内に道路標示「停止線」の表示のあるのを見ることができるから、右の道路表示は有効であり、被告人は停止線のところで一時停止をしなければならなかつたのであつて、原判決の法令の適用に所論のような誤りはない。また事実誤認の論旨は、道路標示「停止線」が無効であることを前提とし、原判決の認定していない事実について原判決の事実誤認を主張するものであり、論旨はすべて理由がない。

よつて、本件控訴は理由がないので、刑訴法三九六条に則り、これを棄却することとし、当審における訴訟費用は、同法一八一条一項本文を適用して、これを全部被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩見秀則 平野清 大山貞雄)

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